大阪高等裁判所 昭和27年(う)539号 判決
論旨のうち(2)の(ロ)において弁護人は本件告発は国税犯則取締法第十四条第二項に基きなされておるが被告人には通告の旨を履行する資力があるのであるから、告発に先だつ通告をしないでも同条項により直に告発ができる場合には該当しない。従つて本件告発は法律の許容しない無効のものでかかる告発を条件としてなした公訴は棄却されねばならない旨主張するのである。そもそも本件取引高税法違反の事案については適法な告発が訴訟条件として必要なことは論をまたないとこであり、これを欠くときは刑事訴訟法第三百三十八条第四号により公訴は棄却せらるべきである。そこで本件において、かかる適法な告発が具わつておるかどうかを調査するに記録中に吉野税務署長俣野孝作成の告発書があつて、同告発書には被告人が一斗桝一個を販売した対価金九百円を領收し、その取引高税の税額に相当する金額の取引高税印紙を交付しなかつた事実を掲げ、以上の行為は取引高税法第四十四条第一号に該当するものである。よつて右は情状により告発するを適当と思料するので、国税犯則取締法第十四条第二項により告発する旨記載せられておる。従つて本件は税務署長が被告人に取引高税法第十四条第一号の犯則あるものと認め国税犯則取締法第十四条第二項に基き法定の通告処分をなさずして直に告発をなしたことが明瞭である。しかして右国税犯則取締法の条項は「犯則者通告ノ旨ヲ履行スルノ資力ナシト認ムルトキハ前項ノ通告ヲ要セス直ニ告発スヘシ情状懲役ノ刑ニ処スヘキモノト思料スルトキ亦同シ」と規定し、告発に先だつ通告処分を必要としない場合は(イ)「犯則者通告の旨を履行する資力なしと認めるとき」及び(ロ)「情状懲役の刑に処すべきものと思料するとき」に限るのであつて右に該当しないときは必ず通告処分をなし、その不履行を待つて始めて告発すべきであり之に反する告発は訴訟条件を具備せしめるに至らない不適法のものと解すべきである。ところで前示告発書の「情状により告発するを適当と思料す」とは取引高税法第四十四条第一号が懲役刑を定めていない点に鑑み右(ロ)の場合でなく(イ)の場合に該当することを表わしておるものと見るべきであつて、即ち本件告発は国税犯則取締法第十四条第二項前段に基くものとしての告発である。そしてその資力なしと認めることは原則として税務署長の職権に属し、その判断に任ぜられた事項であるけれどもその判断たるや恣意に陥らず経験則に反しない合理的なものでなければならないのは当然のことであり、もし一般経験則に照し資力なしと認めるのは不合理なことが容易に看取し得る場合なのに拘らず、通告を経ずして直ちに告発をなすが如きは許されないところであつて、その告発は前提条件たる通告処分を欠くものとして叙上の理により不適法と謂うべきである。蓋しこのことは法が刑事手続によらない通告処分なる手続を設けて一面犯則者の利益と便宜とを考慮しておる精神に徴しても亦明白である(最高裁判所昭和二四年(れ)第九一二号同年七月二三日第二小法廷判決は判文を熟読すればその趣旨とするところは以上の説示と同様に解せられるのみならず事案の具体的内容に照し本件を律するには未だ適切ではない)そこで以上の説明に基き本件を見ると被告人が取引高税法第十三条第二項に違反し、取引高税印紙を交付しなかつたと言う印紙額は僅か九円に過ぎなかつたこと、この違反を処罰する同第四十四条の法定刑は五万円以下の罰金又は科料であること、しかも被告人は店舖を構え薬品商を営み相当な收入資産を有することが記録上明かであつて、これ等の諸点に照し特別の事情のない限り被告人には法定の通告の旨を履行する資力なしと認め得られないことは一般経験則に徴してたやすく理解せられるのである。それにも拘らず原審が右特殊事情の存否につき税務署長その他の取調を行う等の審理を尽すことなくして通告処分を経ない本件告発をたやすく適法有効なものと認めて審理判決したのは失当と謂わざるを得ないのであつて、原判決には審理不尽の違法延いては不法に公訴を受理した疑あり破棄を免れない。論旨はこの点において理由がある。